【ライコウ横浜店ブログ】

埼玉県よりBMW 3シリーズセダン(F30)のお客様にご来店いただきました。
おクルマは、2013年のアクティブハイブリッド3になります。

今回は、ドライブトレーン再始動不可のトラブル修理作業を承りました。

ドライブトレーン再始動不可のトラブル修理作業

ハイブリッド車に搭載されているハイボルテージバッテリーが動作しなくなりドライブトレーンのエラー表示が出てしまいました。

お近くのBMW専門で修理している工場へ相談されるとハイブリッド用のバッテリーの故障だと判断されたと同時にバッテリー交換の専用工具が無いから修理できないとの回答。

そのため、別のショップ通じてディーラーで修理されることになりました。
ディーラーの診断結果では、FEM_BODYの故障と判断され、新品のFEM_BODYに交換後、プログラミングを実施。
しかし、プログラミングが途中で止まってしまい、先へ進むことができず修理作業が中断の状態。
そして、エンジンが始動しなくなってしまいました(-_-;)

もう、にっちもさっちもいかない状況になってしまってライコウへご相談いただきました。
エンジンが始動しない状態ではご来店いただけませんので、どのような手段でご来店いただこうと思っていたら、交換前のFEM_BODYを取り付けたらドライブトレーンのエラー表示はされるもののエンジン始動できるとのことでしたので、いったん交換前のFEM_BODYを取り付けてエンジン制限掛かりまくりでご来店いただきました。

ご来店いただき早速現状把握を行ないます。

交換前のFEM_BODYの状態でISTA診断機でエラーチェック。

メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)と通信出来ていません。
ハイボルテージバッテリーに関するエラーも多数残っています。

メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)とは、ISTA診断機の説明文が下記になります。

メモリー マネジメント コントロール ユニット (SME) はハイ ボルテージ バッテリーへのエネルギー流入を制御し調整します。さらに SME はハイ ボルテージ バッテリー (リチウム イオン バッテリー) の状態量をモニターおよび算出します。
ハイ ボルテージ バッテリーの耐用年数には高い要求事項が課されます (車両寿命)。この要求事項を満たすためには、ハイ ボルテージ バッテリーは正確に定義された領域で走らせる必要があり、そうすることで耐用年数は最大化されます。
ハイ ボルテージ エレクトリカル システムは、エレクトリカル マシン エレクトロニクス (EME) とメモリー マネジメント コントロール ユニット (SME) と連動して起動します。その際には、エレクトリカル マシン エレクトロニクス (EME) は主制御、メモリー マネジメント コントロール ユニット (SME) が従属制御です。両方のコントロール ユニットは、診断開発システム PT-CAN2 を経由して通信します。

ちなみに説明文でお分かりだとは思いますが、ハイボルテージバッテリーと通信出来ていないメモリーマネジメントコントロールユニット(SME)は別物です。
ハイボルテージバッテリーに関するエラーが多数にもかかわらず、ディーラーがFEM_BODYに原因があると判断したのかを調べるために、まずはメモリーマネジメントコントロールユニット(SME)が通信出来ていない原因を調べていきます。

メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)に関わるヒューズが切れていないか?

リアヒューズキャリアのF149とF135を取り出して目視チェックしましたが切れてません。
しかし、電圧を確認するとF149のヒューズに電気が流れていません。
ヒューズは切れていないのにメモリーマネジメントコントロールユニット(SME)へ電気を供給していないことがわかりました。
そこで、F149のヒューズに電気が流れていないのかの原因を探ります。

リアヒューズキャリアの中に双安定リレーというものがあり、FEM_BODYから送られる信号で双安定リレーを切り替えてF149のヒューズを通してメモリーマネジメントコントロールユニット(SME)へ電気を供給していることがわかりました。

もっと調べてみるとFEM_BODYから信号を送らないので双安定リレーが動作せず、メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)へ電気が供給できていないということがわかってきました。

なので、ディーラーはFEM_BODYを新品に交換する必要があると判断したのだとわかりました。

ってことで、ディーラーが調達したFEM_BODYに交換することに。

こちらがFEM_BODYです。

車両からFEM_BODYを取り出して、新品のFEM_BODYへ交換します。

車内ネットワークと新品のECUとの整合性をとるための処置を行ないます。
処置を行なうため車両とPCを繋いで確認しますと、ディーラー修理のプログラミングですでにその処置が行なわれている様子。
この状態だったら、エンジンが掛かるはずと思いきや、エンジンは全く掛かりません。

新品のFEM_BODYの状態でISTA診断機でエラーチェックしますと驚きの現象が( ゚Д゚)

まずは、車両ECUのバージョンを確認できるデータレベル情報が存在しません。

メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)がECUのツリーから消えてしまってます。

これはただ事ではありません。
ディーラー修理のプログラミング時に何かやらかしたのではないかと思われます。

プログラミングが途中で止まってしまったとされるディーラーの見解をお客様からお聞きするとパドルシフトが原因だそうです。

しかし、パドルシフトは本車両では標準装備。

後付装着しているのはLCIテールライトとシートヒーター。

後付装着したメーカーオプション装備はスパナマークが表示されます。
2枚の画像の装備品リストは、ドイツにあるBMWのサーバで記録されている情報を表示しています。
パドルシフトが原因でプログラミングが途中で止まってしまうなんて有り得ません!
社外のパドルシフターを装着されていますが、LIN制御のパーツになりますので、全く関係ありません。
とんでもなく無知な理由を言っていることがわかります。

ってことは、ディーラー修理時に何かやらかしたような予感・・・。

新品のFEM_BODYはメモリーマネジメントコントロールユニット(SME)がECUのツリーから消えるし、データレベル情報の消失によりプログラミングが出来ない状態ですので、使い物にならずゴミ化しています。
なので今まで装着していたFEM_BODYを使っての修理作業へと変更を余儀なくされました。

まず考えたのが、ディーラー修理のプログラミング作業が途中で止まったという事態が、問題を引き起こしているかもしれないと思い、プログラミング作業を実施。
システムが自動計算して必要なECUのみを最新のプログラムへバージョンアップ。
わずか25分程度で何の問題も発生せず作業完了。
えーっとプログラミング作業が途中で止まってしまったという理由がわからない・・・。

ここで、エンジンを始動させてみるとエンジンは掛かりますが、まだメモリーマネジメントコントロールユニット(SME)への電気の供給は行なってくれません。

次に、双安定リレーを無視して、メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)へ直接電気を供給してみました。
そうしますと、メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)が動作して、一気にハイボルテージバッテリー (リチウム イオン バッテリー)に関するエラーも無くなりました。

ということは、メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)やハイボルテージバッテリー (リチウム イオン バッテリー) は問題ナシと判断できます。お近くのBMW専門で修理している工場が判断したハイブリッド用のバッテリーの故障というのも間違っていますね。

あとは、メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)への電気の供給を双安定リレー無視でどのようにしてやろうと考えました。

とその時です!

メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)へ直接電気を供給するテスト配線を元通りに戻してるにもかかわらず、双安定リレーが動作して正規の状態で電気を供給しているんです。そのため、エラーも出ず問題無くエンジンも始動するではありませんかっ!

もうビックリで、何故正規の状態で電気を供給しているかの理由がわかりません。
久々にサワダマジックがさく裂したか・・・(笑)
サワダマジックとは、故障などの不具合があってご来店いただいても、私が拝見すると不具合の症状が出ないことが多々あるんです。
それで直ってくれるのであればいうことありません。
スリープに入れてみたり、色々とテストしましたが、全然問題なさそうです。
ひょっとしてFEM_BODYが何故か直ったのか?とも思いましたが、FEM_BODYを交換していないので今後再び不具合が出る可能性が無いとは言えません。

そのため、双安定リレーを介さずメモリーマネジメントコントロールユニット(SME)へ電気の供給を行なう処置を行ないました。

そして、メモリーマネジメントコントロールユニット(SME)も最新バージョンへプログラミングを行ない作業完了です。

ドライブトレーンのエラー表示が無くなりました。

ハイブリッドのバッテリー機能もバッチリ動作してくれてます。

アクティブハイブリッド3では、エアコンから冷風が出なくなったり、シートヒーターが動作しなかったり、エンジン制限以外にも様々なところに影響が出ていたとのことでしたので、その不具合が一気に解消されました。

また、ハイボルテージバッテリー (リチウム イオン バッテリー) の交換までの修理費用を覚悟されてましたので、修理費用が安くついたと大変喜んでいただけました(^^♪
ただ、ゴミ化している新品FEM_BODYのパーツ代は勿体ないですね。

完璧な状態の修理作業ではありませんが、とりあえず直ってくれて良かったです。
作業途中は、修理に何日の時間を要すだろう?って感じていましたので、ご来店当日に作業が完了できました。

今年6月に経験した【ディーラーのプログラミング作業で5つのECUが不動になる!?なぜ不動になるのか!?対策方法教えます!!】で得たスキルが大いに役立ちました。ISTA診断機の診断結果やテストプラン計算だけでは導き出せない今回の案件は、ディーラーの修理手法では膨大な修理費用と日数が掛かってしまうだろうと容易に推測できます。

そんなことを色々を感じることができたトラブル修理作業でした。